Bana's diary

Banaがのんき気ままに暮らす小屋。小説「Catherine〜キャサリン〜」を書いてます。キャラは貸したり借りたり

Catherine〜キャサリン〜2 「キャサリン 2」

ご機嫌にノートを抱き、キティは自宅に帰った。キャサリンのノートを引き取ることができ、足取りも軽くなる。そのままの勢いで叔母の家のドアの鍵をポケットから取り出し、鍵穴に差し込んだ。父親がなくなってからは唯一の家族の叔母の家に住んでいる。

軽い足取りで家の中に入り、ドアの鍵を閉めた。

「ばぁちゃん、ただいま!」

キティはキャサリンのノートのことを喋りたくてウズウズしていた。が、静まり返る家の中。キティははぁとため息をつく。

「・・・・お仕事かぁ」

リビングのソファに思い切り座り、テレビのリモコンをつかもうとノートを机に置こうとした。

「・・・・」

が、なぜかノートを置こうとすると胸騒ぎがし、不覚にも不安な思いがどっと押し寄せた。結局ノートは持ったまま、テレビはやめにして叔母が帰ってくる前にスーパーへ行ってお菓子を買おうと決め、さっそく財布に手を伸ばした

バタアアァァン!!!

瞬間、リビングのドアが勢いよくしまった。キティは驚きのあまり喉の奥で小さな悲鳴を上げ、襲ってくる大量の不安と恐怖を振り払おうと瞳を見開いた。自身の周囲を取り憑かれたかのように見回し、足の震えを必死で止めようとするがまったく体が言う事を聞かない。

「・・・ば・・・・ばぁちゃん?」

返事はない。体中が悲鳴を上げ、恐怖から逃れようと必死になって騒いでいる。少しでも動くのが恐ろしく、歩きたいはずの足は震えるだけ。両手も胸にしっかりとノートを抱くだけで全く動いてくれない。まだ喉の奥でひっひと息と混じり合った悲鳴が漏れている。ヒソヒソと誰かが話すような耳鳴りだけが静かに聞こえてくる。

「・・・・だ、れかッ・・・・」

キティはソファの隅に逃げ込み、ノートを抱きしめた。ふと、あることに気づき、キティはノートを凝視する。目を細くし、ノートを睨んだままゆっくりと耳を近づける。そして、バッと顔を遠ざけると、疑いの目でノートを見つめた。耳鳴りではなかった。小さな話し声はノートの中から聞こえる。その事実からして一番初めに頭に飛び込んでくる、友人の名。

「キャ・・・・サリン・・・?」

ゆっくりとキティはノートを開くようにノートに指を乗せた。肩の震えがノートを開くのを邪魔しようとする。キッと肩に力を入れ、キティはそっとノートを開いた。そのページに絵は載っておらず、一番初めの真っ白なページだった。が、直ぐにそのページは真っ白ではなくなった。一瞬にして黒っぽい赤の丸がポツンと現れた。キティははじかれたようにはっと息を飲む。もう一つ、同じ色の丸が現れた。そして、薄い紙にゆっくりと滲んでいく。

キティは恐怖におののきながら静かに、そぅっと天井を覗き込むようにして顔を上げた。そのあげた色白の顔の頬にも、ノートに現れた丸と同じ色の丸が現れた。そして、高らかに、ひび割れたキティの悲鳴が響き渡った。

天井には無残にも包丁で磔にされた叔母の苦しそうな姿があった。

 

 

 

 

 

「キティ」

クリスはキティが驚かないように声をかけたがキティの体は一瞬ブルっと震え、細かく震え始めた。キティは警察署の毛布を肩にかぶり、ノートを抱きしめて震えていた。潤んだ目からは涙が今にもこぼれ落ちそうになっていた。クリスはキティの横に座ると気まずそうにため息をつく。

「大丈夫・・・・じゃないよね。落ち着いた?」

「ごめんねクリス・・・・大丈夫、少しは話せるから」

キティは無理に蒼白の顔で微笑んで見せた。クリスのカラフルになった両手とだぼだぼのジーンズを見てさらに微笑む。

「また、絵を描いてたのね」

「電話が来たから、光の速さで来たよ。着替えてる暇なくて」

キティはまたうつむいた。瞳から涙がまっすぐこぼれ落ち、キティの黒いスカートの上に落ちた。クリスはキティの方へ向き直ると、本題を切り出した。

「何があったか、教えてくれる?キティ」

キティはショックで青白くなった顔をゆっくり上げた。

「何があったかって・・・家に帰って、ソファでくつろいでたら、ドアがいきなり閉まって・・・ノートを広げたら、血が落ちてきて、天井を見たら、ばぁちゃんが・・・・包丁で、天井にッ・・・・」

キティの震え始めた手を取りながら、クリスはうなずいた。

「じゃあ、殺人だね。ドアがしまたってことは誰かがいたんだね。そしてその人が叔母さんを殺した。キティが帰ってきたことにびっくりして、姿を見られないようにドアを閉めてから玄関まで行って逃げた。あってるよね?」

ブルブル震えながら、何かに迷いながらキティは頷く。

「警察官さんに話してくる。少しだけ待っててくれキティ」

クリスは怒りに震える手をなだめながら部屋を出ていこうとドアノブに手をつけた。

「待ってクリス!!!行かないで!!!」

キティが叫んだ。クリスは驚きのあまり、激しくキティの方へ振り向く。

「落ち着いて、キティ。すぐに戻ってくる」

「違う違う、違うの!!犯人は人間なんかじゃない!違うの!」

クリスは必死に訴えるキティを凝視した。キティは慌ててノートをつかみ、一番初めのページを必死に開いた。そのページには血だまりが2つ。

「絵が、キャサリンの絵が犯人は人間じゃないって!!スゥジィが・・・違うって!!」

頭の中がめちゃくちゃにながらも、クリスは突きつけられたノートを見た。二つの血だまり。そのページの一番下の行。

「・・・あー・・・・キティが書いたわけじゃあないよね?」

「違う!このページは真っ白だったの。さっき気がついたの・・・ここで待っててねって言われて、ここで待ってる時に。落ち着こうと思って、ノートの中を見ようと思って・・・この文字に・・・」

「なるほど・・・”悪魔の仕業、悪魔はいる”か・・・・悪魔ねぇ・・・」

クリスは頭の後ろに頭痛を覚えた。お調子者のキティに呆れ、小さな怒りを覚えた。だが、キティは信じてくれとばかりにノートの文字を2回繰り返して読む。綺麗なツルンとした肌に、涙がこぼれ落ちた。

 

「ハル!!待って!!」

「く・・・クリス?」

次の日の早朝。

ハルは荷物をまとめて入れたカバンを肩に担いで、めんどくさそうにクリスを見た。もう勝手に退院しますよと言わんばかりの表情だ。だが、クリスの頼みの綱はハルしかいなかった。

「あ、あのね、キティの叔母さんが、昨日、誰かに、殺されてたんだ・・・」

クリスは息も絶え絶えにハルにそう伝えた。

「お前は死んだ人を俺に教える郵便屋か何かかよ」

「真面目に聞けよ!他人でもお前のことが好きな女の話だぞ!!」

クリスは必死に言ったが、ハルが目を丸くしてこちらを見ているのに気がつくと、ビクッと肩を揺らした。なぜだろう、汗が止まらない。できればここまで走ってきたことが原因であってほしい。

「・・・とにかくさ、これ見て!!」

クリスはポケットの中から写真を出し、ハルに渡した。その写真は、キャサリンのノートのページを全体的に撮った写真だ。そしてあの文字も。

「・・・・なんだこれ。この文字、キティを脅すためだけのいたずらかなにかじゃないの?」

「違うんだ、キティはそれをずっと持ってた、誰にも渡してない。なのに、何もない真っ白のページから、その文字が浮き出てきたんだって。その文字を浮かび上がらせたのは、」

クリスは二枚目の写真をハルに見せつける。ノートの中の「スゥジィ」と名付けられた、クリーム色のショートカット、前髪で目が隠れ、にいっと笑った口から血が滴り落ちている少女の絵。いかにも楽しそうな素振りをしているが、その両手には鉈を握っている。キャサリンの絵だ。

「この、スゥジィっていう、キャサリンが描いたキャラクターなんだって言い張ってるんだ。信じてくれるまで何も話さないって意地張って・・・どうしよう・・・」

クリスは力なく肩を落とした。信じてもらえるはずのない事実を伝えたところでどうするか、どうしてもらうかまでは全く考えていない。とにかくキティが喋りだしてくれるまで、キティを信じてやるしかなかった。だが、あまりにも非現実すぎる。

「ふぅん・・・・・そういえば、キャサリンって亡くなったんだよね。それ、キャサリンのノートなんだよね?」

「そう・・・昨日、ここから出たあとキャサリンの家に行ったんだ。そしたら、キャサリンのお兄さんからノートをもらった。キティがね」

ハルはマズそうな顔をし、うーんと唸った。不安げな表情と怒りが混じっている。

「もしかして・・・幽霊や、ゴーストって本当にいるのか?キャサリンの霊が憑いてるなんてことは・・・?キティに害があるのかな!?ならすぐにノートを捨てなきゃ!!これ以上被害を広げたらダメだ!!呪われたノートなんだ!!」

「黙れよクリス!ノートは捨てたらダメだ。ずっと持ってろ。そんで、キティが言ってること信じてやれ。キャサリンの霊じゃないかもしれない。ほかの霊って可能性は?ゼロじゃないだろ!ほら、だから・・・・調べればいい、そう調べればいいんだ!もしかして、もしかすると、そのキャラクター達が予知して助けてくれるノート!とか?」

「ハル、それ言ってることめちゃくちゃだよ!」

「じゃあキティはずっと黙ってるぞ?・・・・じゃあ、こうしよう。行動だけでも見せてやればいい。別にキティを信じなくてもいいんだ。行動だけはキティを信じてますよって感じで。頭の中ではバカバカしいって思ってればいい。な?そしたらちゃんと喋ってくれるようになるよ」

ハルは写真をポケットにねじり込むと背中を向けた。クリスは途方に暮れ、クラクラしそうな頭を抱えながらキティの元へいそいだ。

 

 

ハルは気づいていた。

ノートにはキャサリンが想像で生み出した住民が、キャサリンが作った偽物の魂で生きていることを。

叔母を殺したのは、本当に人間ではないことを。

キティもノートも嘘をついていないことを。

ノートは、キャサリンは、キティを守ろうとしていることを。

 

Catherine〜キャサリン〜1 「キャサリン 1」

 

病室に入り、一息入れると僕はなぜ花束を持って、同性の患者と向き合っているのかがわからなくなってきた。

「入院するぐらいの大事、しでかしたの?」

「さぁ。よくわからないよ」

クリス・フロストフェローは学校で同じクラスである友達、ハル・スカイハートが入院したという報告を担任から受け、クラスの代表として病院に向かった。が、代表はもう一人いる。恥ずかしいからといって病室には入ってこないが。ハルは花束を見て鼻で笑った。

「もうすぐ退院さ。花束なんて眺めてる時間はないね」

クリスもつられて笑うと、パイプ椅子を引き座った。ハルのピンクがかかった髪色と鋭い目つきはクリスの栗色のやわらかい髪とまったりとした深い青い目とは似ても似つかなかった。だが、どこかで二人は同性としての魅力に惹かれていた。クリスは強いハルに憧れ、ハルは優しいクリスを尊敬していた。

「この花束、僕からじゃない。キティからだよ」

「キティ?あぁ、そっか。なら貰わねーとな」

「女の子からは別腹ってか?」

「そんなんじゃねーよ」

キティは病院に着いた途端、ハルと顔を合わせるのが恥ずかしいからと全てを投げやりにクリスに押し付けた。ここが病院だったとは、クリスもキティも知らなかった。

「あ、それと悲しい一つ報告が」

「どした?」

ハルがキョトンとした顔をする。

「隣のクラスに、キャサリンっていう子いたろ?その子が亡くなったんだ」

正直、クリスも驚いていた。若いうちに同じ学校の生徒が死ぬとは思ってもいなかった。まだ死を深く考えたこともないクリスにとって、死ぬとは恐ろしいことだ。ハルは何食わぬ顔だ。

「ふーん。そいつ、あんまり知らねぇや。どんな子だったかなぁ・・・」

「真っ黒のスーパーロングでさ。前髪も長くて。いっつも一人でノートに絵をかいてた子。気味悪がられてたけど、あれはどう考えても周りに馴染めないから暇つぶしに絵を描いているようなもんだ。可哀想な子だよ」

クリスが落ち込んでいると、ハルが肩を叩いた。

「お前って本当にすごい。知らない奴が死んで、落ち込めるんだな」

「当たり前だろ。同じ人類が一人いなくなったんだ。死に一歩迫った感じがして、嫌なんだよ」

その言葉はハルの胸に突き刺さるもさして痛みにはならなかった。クリスは微笑んで椅子から立ち上がった。

「じゃあ、また。学校で」

「じゃあな」

ハルの元気な姿を目に焼き付けたクリスは病室を後にした。

 

「どうだった?お花、気に入ってくれてた?」

病室を出た瞬間、キティが目を輝かせて食らいついてきた。キティと幼馴染に生まれてきたことを恨んでしまう。

「あぁ、微妙」

「微妙ってなに?もっと詳しく教えてよ!」

キティ・ジャズマンは密かにハルに想いを寄せ、その思いを伝えきれずにいる。だからといってクリスを引きずり回し、しまいにはハルとクリスの男の絆が強くなっただけで、他は何も変わらない。そんな時間がずっと過ぎていくだけである。明るい金髪を肩までウェーブをかけて伸ばし、前髪は三つ編みにして右に流している。目はうるうるとした茶色で、瞳は大きく美人な方だ。少し男勝りな面があり、考えは貫き通す。

「じゃあ、普通」

「もう・・・」

キティは頬を膨らませながら病院を出て、立ち止まった。

「・・・・・ねぇ、キャサリンの家に行かない?」

「急にどうして?」

キティはキャサリンと仲が特別良かったわけではないが、たまに話しかけて話したり、同じグループで活動しているところを度々見た。キティは自分のフォローでキャサリンが明るい子になってくれはしないかと密かに期待を膨らませていたのだ。だがその期待も虚しく、キャサリンは自殺という形でこの世を去った。

「キャサリンとはちょっとだけ仲が良かったの。自分の嫌なことを話してくれたし、私の嫌なことに共感してくれてた。自殺でなくなっちゃうなんて、悲しい・・・」

キティは俯いた。その俯いた先にある、胸元のペンダントを握り締めて。キティの両親は離婚し、キティを引き取った父親は他界してしまったが、父親が残した莫大な財産でキティは生きている。父親が誕生日プレゼントにとお揃いのペンダントをキティに贈り、キティは喜んでいたが父親が亡くなったのはそのすぐあとだった。

「・・・・なら行こうか。僕もこのあと何もないしさ。キティが好きないようにしていいよ」

クリスの顔を覗き込み、嬉しそうにキティは首を縦に振った。

 

「お邪魔します。こんな時に、すみません」

二人を迎えてくれたのはスキンヘッドの背の高い大人だった。

「いいさ。妹もきっと喜んでいるよ。部屋に行ってやってくれ。あの時のままにしてある」

かなり歳の離れた兄なのだろう。少しやつれた顔をし、小さく微笑んだ。

「ありがとうございます」

クリスとキティはキャサリンの部屋に足を踏み入れた。薄緑のカーテン、窓が二つ。机とスタンドライト、緑の毛布がかかったベッド、薄緑の人形、筆箱、そして小さな机の上にはカッターの刃が散らばっていた。

「彼女、緑が好きだったの。特に淡い色のね」

キティは懐かしそうに机を撫でた。まだ分かれて2日めだが。

ふと、クリスは机の上に薄緑のノートを見つけ、指差した。

「このノートって?」

「あぁ、キャサリンの落書き帳よ。ちょっと気味悪い女の子たちを描くのが好きだったの」

キティがノートを広げて見せた。前髪で目が隠れ口から血を垂らす女の子、ショートカットで前髪にウェーブがかかり左目には安全ピン頭には包丁が刺さった女の子、灰色のスーパーロングで左目の眼球が飛び出て宙をさまよっている女の子、両手がなく血まみれの両手がツインテールの女の子の両脇を楽しそうに飛び交う絵、左目が前髪で隠れポニーテイルに白目の女の子。

確かにどれも不気味でグロテスクな子ばかりだ。

「私、この子達のことキャサリン・ガールズって呼んでるの。見た目はグロテスクでも、キャサリンがこの子達を使って書いた漫画はシュールで面白いのなんの!もう新しいものが見れないなんて残念だわ」

先ほどのスキンヘッドの兄が部屋に入ってきて、にっこり微笑んだ。

「よかったらそのノート、もらってくれ。家族に見せてくれないんだ。その中を。キャサリンに見てもいいよって許可をもらっている子に引き取ってもらおうと思ってね」

キティは顔を輝かせ、ノートを胸に抱くとすぐに首を縦に振った。

 

キャサリンはきっと見てた。ノートをキティが引き取る場所を。

そしてなんとかキティを助けようと、キャサリン・ガールズを動かそうとした。

悪魔からキティを守ろうとしていた。